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『妹、分裂する』はポップでハードな演劇的SF

意味不明なタイトル、ポップな表紙絵、冒頭の人物や関係性の描写はゆるふわ。とにかく妹が毎日分裂していく。1日で2人、2日で4人、3日で8人、N日で2N人…。

妹、分裂する (カドカワBOOKS)

妹、分裂する (カドカワBOOKS)

しかし分節して指数関数的に増える妹の数に比例して、物語はハードなSFに傾いていく。『妹、分裂する』はそういう小説。

僕は妹がいるので、正直こういうシスコン設定はちょっと引くというか、積極的には触れないジャンル。しかしそこを乗り越えて読んで良かった。

しかしハードな展開に転がっていくのはもう冒頭の分裂からストーリーが転がっていけば避けられないことだ。最後までゆるふわを貫けるほうがよほどご都合主義というかお花畑だろう。

「演劇的なストーリーの作品だな」とふと思った。昔、平田オリザの『演劇入門』に書いてあったことだけど、戯曲で大きな事件や出来事が起こるのは後半ではない。むしろその冒頭だ。この事件は問題提起となり、役者たちは劇中その問題に翻弄され続ける*1。三谷後期作品はテレビドラマなどでもこの構図が強い。

演劇入門 (講談社現代新書)

演劇入門 (講談社現代新書)

妹分裂はきれいに演劇的なストーリーになっていて、「妹が分裂をはじめる」という問題提起に、主人公である兄、妹自身、友人・家族、そして世界中の人が翻弄されていく。読んでいる方もいったいこれはどうなってしまうんだと眺め続ける。

小説を書くときにもこういう書き方はひとつの方法論として使える。この書き方の場合、結末ありきでなく作者自身も問題に翻弄されながら筆を進めていくことになるだろう。そうやって物語を進めると、序盤はスラスラと進むのだが、問題が大きいほどあとが辛くなる。問題に翻弄されるドタバタ劇はおもしろいが、最後はドタバタにケリを付け、問題を解決しなくてはいけない。

朝起きたら妹が分裂をしていた。そういう冒頭の問題を思いつく人は作者の他にもたくさんいたかもしれない。ただそれを転がしてエンターテイメントを描き、そしてその問題をきれいに解決してみせた、作者の竜田スペアさんはすごい。

妹、分裂する (カドカワBOOKS)

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書籍化前のカクヨム版も読めます。

kakuyomu.jp

*1:なぜそうなっているかというのは演劇入門を読んでください